認知症の備えにはどちらを選ぶ?成年後見制度と家族信託
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.11.15
平均寿命が長くなり、高齢化が進む中で、認知症は大きな問題になっています。
自分の親が認知症になってしまったときには、介護の問題もありますが、銀行口座の凍結などの問題も発生します。
この記事では、将来の認知症に備えることができる後見制度、家族信託の2つの制度それぞれの基本や比較、どんなときにどの制度が利用できるのかについてご紹介します。
目次
認知症の備えるのは何故?
高齢化が進むにつれ、認知症は大きな社会問題になっています。親が認知症になってしまうと、犯罪などに巻き込まれるリスクだけでなく、家族の生活にも影響があるのです。
口座の名義人が認知症であることが分かると、金融機関は口座を凍結します。そうなると家族は、名義人の施設の費用や治療費の支払いのためであってもお金を引き出すことはできません。
認知症を発症して施設に入れば、自宅へ戻る可能性は低いですから、自宅を売却して施設の資金にしたいと考えるご家族もいるでしょう。しかし、不動産の所有者が認知症の場合には、売却の意思が確認できないので、業者は対応してくれません。
売却ができないと、家族は空き家となった自宅や所有している不動産を管理する必要があります。不動産が傷まないようにというだけでなく、管理が不十分であることが原因で第三者に損害を与えると、賠償責任を負う可能性があるからです。
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成年後見制度と家族信託
認知症による問題に備えられる制度として、成年後見制度と家族信託の2つがあげられます。まずはそれぞれについてわかりやすく要点を解説していきます。
成年後見制度とは
成年後見制度制度の目的は、認知症を含む、精神上の障碍を理由に、著しく判断能力が衰えた人を犯罪などから守り、生活を維持することです。そのサポートをする人が、家庭裁判所によって選任された「後見人」です。
成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
法定後見制度
法定後見制度は、すでに判断能力が低下している人が利用できる制度で症状が重い順に後見、補佐、補助のの3つに分かれています。
「後見人」「保佐人」「補助人」には、家族がなることができます。しかし、家庭裁判所に選任される必要があり、家族などの希望を出すことはできますが選任される保証はありません。
「成年後見人とは?選び方や費用、法定・任意後見人と家族信託の違い」で詳しく解説しています。
任意後見制度
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、認知症などで将来、判断力が不十分な状態になった場合に備えるための制度です。
あらかじめ家族などに、自分の生活,療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約を公正証書で結んでおき、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申立てをおこなうことで任意後見が開始される仕組みです。
判断能力が衰えてしまってからでは任意後見契約を締結することはできません。
「任意後見制度とは?手続き方法や費用、注意点を解説」で詳しく解説しています。
家族信託とは
家族信託は、「委託者」が信頼できる家族や親族である「受託者」に、自分が指定した内容の財産を託す(信託)というものです。
家族信託では、受託者に対して財産を管理・運用するたけでなく、処分する権利を与えることもできますので、必要があれば受託者である子は不動産を処分することも可能です。
家族信託は委託者と受託者の合意によって締結される「契約」です。そのため判断能力が著しく衰えてしまってから契約することはできません。
「家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!」で詳しく解説しています。
成年後見制度と家族信託の比較
成年後見制度と家族信託については細かい違いがあります。一覧表の方がわかりやすいでしょう。
法定後見 | 任意後見 | 家族信託 | |
---|---|---|---|
制度の目的 | 保護・支援 | 保護・支援 | 柔軟な財産の管理・運用・処分・承継 |
期間 | 後見等開始の審判~被後見人等が死亡するまで | 契約後、任意後見監督人選任の審判~本人または任意後見人が死亡するまで | 契約で定めた期間 |
管理する人 | 選任された人(家族など希望を出せるが選任される保証はない) | 任意後見人:契約で定めた人 任意後見監督人:選任された人 | 契約で定めた人 |
監督する人 | 家庭裁判所/後見監督人 | 任意後見監督人 | 受益者代理人/信託監督人(ただし、両方とも任意) |
権限 | 財産管理 法律行為 身上監護権 | 財産管理 法律行為(契約で定めた範囲内) *同意・取消権なし 身上監護権 | 信託財産の管理・運用・処分 |
報酬 | 家庭裁判所が決定する | 任意後見人:契約で定める 任意後見監督人:家庭裁判所が決定する | 信託契約の中で定めることも可、報酬条項がなければ無報酬 |
管理する財産の範囲 | 財産を包括的に管理 | 契約の内容にもよるが、財産を包括的に管理 | 契約で自由に定めることができる |
財産の管理方針 | 財産を目減りさせない | 財産を目減りさせない | 契約で定められた権限の範囲で運用や処分が可能 |
居住用不動産の処分(売却) | 家庭裁判所の許可が必要 | 任意後見人の判断でおこなえるが、合理的な理由がないと指摘される可能性あり | 契約で定められた権限の範囲で処分が可能 |
「身上監護権」とは、本人に代わって医療や介護に関する契約をする権利のことです。家族信託では、この権利を契約に盛り込むことはできませんが、原則、子としての立場で同じ行為をおこなえると考えていいでしょう。
認知症の備えではどちらを選べばいい?
後見制度と家族信託どちらを選べばいいかという点については個々の状況によって異なり、一概にどちらが優れていて、どちらが劣っているという評価はできません。
現在の状況ややりたいことによって、以下に簡単な目安を作りました。あくまで参考程度ですので、もっと具体的に考えたい場合は、無料相談などを活用しましょう。
- すでに著しく判断力が低下している → 法定後見
- 受託者を依頼できる家族がいない → 法定後見または任意後見
- 自分で選んだ人に依頼したいが家族はいない → 任意後見または家族信託
- 専門家に依頼したい → 任意後見
- 財産を運用して欲しい → 家族信託または信託銀行など
- 自分の指定した方法で財産を管理・運用して欲しい → 家族信託
- 遺言も考えている → 家族信託
成年後見制度と家族信託の費用はどちらが安い?
成年後見制度と家族信託の費用は一概には比べることができませんが、それぞれについて大枠で解説していきます。
費用については、一度の支払いで済むものか、ずっと払い続ける(ランニングコスト)費用があるか、という点にも着目することが大切です。
成年後見制度でかかる費用
成年後見人が必要になったときにかかる費用には、成年後見人を選任する際にかかる費用と、成年後見人に対する報酬があります。
成年後見人の選任にかかる費用は、後見開始の申し立てをする際に集める必要書類の実費と、後見開始の申し立てをする際に裁判所に申し立てる時に収める手数料が必要になります。自分自身で手続きする場合は合わせて3万円程度の準備が必要です。家庭裁判所から診断が必要とされるとそれに数万から10万円がプラスされます。
成年後見人を選任すると、その職務に対して報酬が発生します。親族が後見人となっている場合は、あえて報酬の申し立てをしない場合も多いようですが、報酬の額は後見人からの申し立てにより、家庭裁判所が決定します。通常は月額3〜6万円程度であることが一般的です。それが契約終了まで続きます。
家族信託の費用
家族信託は資産の種類や価額によるところがあり費用には幅があるのですが、専門家に依頼する場合はおおむね下記のような価格帯が多いようです。
- 信託財産に不動産がない場合:30万円~70万円以上
- 信託財産に不動産がある場合:50万円~100万円以上
金融機関に依頼する場合は、最低100万円からといった指定があるなど、費用が高くなる傾向があります。また、ランニングコストがかかるところも多いです。詳細は「家族信託は信託銀行でないとできない?違いや銀行ごとのサービスも紹介」で説明しています。
成年後見制度と家族信託のよくある疑問
後見制度と家族信託のよくある疑問とその答えをご紹介します。
Q:父が認知症になりました。どの制度が利用できますか?
すでに認知症になっているときには、法定後見制度のみ利用可能です。ただし、軽度の認知症で、契約書の内容を理解するだけの判断能力があるときには、家族信託も検討できます。
その場合は、症状が進む前に決められるように、急いで専門家に相談した方がいいでしょう。
Q:専門家に受託者になってもらって家族信託をできますか?
家族信託は、非営利が条件である民事信託のひとつです。専門家が不特定多数の者から反復継続的に営利を得ることを目的とする業務をすることは商事信託にあたり信託業法に抵触する可能性が高く、原則、専門家を受託者にすることはできません。
Q:横領が心配、成年後見制度と家族信託どちらを選べばいい?
残念ながら、後見制度の専門職後見人でも横領が全くないわけではありません。
家族信託を利用しながら横領などの受託者の不正のリスクに備える方法としては、認知症になったときに専門家に信託監督人を依頼するような条項を契約書に入れることでしょう。ただし、当然費用はかかりますので、契約時によく相談をしましょう。
Q:成年後見制度と家族信託どちらも利用できる?
成年後見制度と家族信託の併用は可能です。本人の判断能力の程度により使う制度が異なります。
まとめ
以上、成年後見(法定後見・任意後見)、家族信託それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説しました。認知症に備えてどの制度を選ぶかは、家族の状況によって異なります。
特に任意後見と家族信託は判断能力があるうちでないと利用できませんので、高齢の親がいる方は早めに検討を開始しましょう。
どのような対策が最適かは個々の状況によりますので、専門家に相談することをお勧めします。認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家をご紹介していますので、気軽にご相談ください。