家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.11.13
最近、「家族信託」という言葉を耳にしませんか。
「高齢の親が認知症になったら財産の管理が心配」と思っている方にとっては、家族信託はお金の管理についての不安を解消する一つの方法です。
この記事では家族信託はどのような仕組みで、どのようなことができるのか、またデメリットもわかりやすく解説します。
家族信託とは
家族信託は、家族による財産管理の手法の一つです。
財産の所有者のかわりに家族が目的に従い財産の管理や運用、処分を行います。
この、家族の財産を家族が管理し家族のために使う「家族信託」は、2007(平成19)年改正信託法で可能となった比較的新しい制度です。
信託とは?
信託を簡単に表現すると、自分の財産を信頼できる人に管理してもらう契約を結び、財産を管理をすることになった人はその契約の目的をはたすことです。
信託という言葉自体も日常的にあまり使わない言葉です。信託については信託法で以下のようにしっかりと定義されています。
「信託」とは、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。(信託法第2条1項抜粋)
家族信託のしくみ
家族信託のしくみでは以下の関係性を理解することが重要です。
- 委託者:所有財産を信託する人
- 受託者:信託財産の管理処分をする人
- 受益者:信託の利益を受ける人
この関係性を簡単な例をあげて説明していきます。
例:父と子の家族信託契約
例えば、父が子どもと家族信託を契約したとします。この場合は以下の関係性が成り立ちます(図を参照)。
委託者・受益者=父
受託者=子
家族信託を契約したことにより、受託者である子が父の生活(利益)ために父の預貯金を下ろしたり、不動産を売却したりすることができるようになります。
このように、家族信託が締結されていれば、子は、父の預貯金から治療費を支払ったり、不動産を売却して施設の費用を支払ったりすることができます。
ただし、契約していない財産は対象外です。
家族信託でできること
家族信託では主に以下のようなことができます。
- 認知症による銀行口座凍結の対策ができる
- 遺言の機能を付けられる
- 不動産の売却や管理ができる
- 不動産の共有による相続トラブルの回避ができる
一つずつ解説していきます。
1.認知症による銀行口座凍結の対策ができる
通常、認知症で意思能力が無くなってしまった状態になるとその人の財産を守るために銀行口座は凍結されてしまいます。もしも家族が、その人の預貯金で生活をしていたり、その人の入院費を払いたいと思って凍結口座から預金を引き出してほしいと希望しても、銀行は応じてくれないでしょう。
しかし、家族信託で事前に対策をしておけば、意思能力が無くなってしまった財産の所有者のかわりに家族が預金の管理をすることができるのです。
2.遺言の機能がある
家族信託では、委託者が受益者を指定することができます。しかも、受益者が死亡した後の後継受益者や、信託が終了した場合の残りの財産の分配方法まで委託者の意思で決められますので、遺言と同等の効果があります。
家族信託では、所有権ではなく受益権という債権にすることで、遺言ではできない2代3代先の承継方法の指定まで可能となるのです。
3.不動産の売却や管理ができる
例えば、実家の親が認知症になり、自宅を売却して施設の費用にあてたいと思っても、自宅の名義人が認知症で意思能力が無くなってしまった状態では売却をすることができません。また、自宅の管理をするために工事をしたいと思っても、業者が自宅の名義人が納得しているかを確認できないため、受けてもらえない可能性もあります。
しかし、家族信託で事前に対策をしておけば、意思能力が無くなってしまった不動産の名義人のかわりに家族が管理したり処分をすることができるのです。
4.不動産の共有による相続トラブルの回避ができる
また、相続が起きた場合にも備えることができます。
たとえば、相続が発生して相続人が複数人いる中で認知症で合意できない人が一人でもいると、後見人を付けない限り不動産を処分できないことになります。
相続登記のされない故人名義の不動産は、法定相続人全員の共有となり、共有の場合、共有者全員の合意が無いと処分などをすることができません。
しかし、不動産を家族信託で信託財産としておけば共有にはなりません。不動産の名義は受託者となり、相続が発生しても、受託者の判断で処分することも可能になります。信託財産から発生する利益は、受益者に分配されます。
また、すでに共有になっている不動産を信託財産とすることもできます。信託設定後は、共有者が認知症になっても、なんら支障は出ません。共有者は、その持ち分に応じた利益を引き続き受け取ります。
家族信託の倒産隔離機能
信託すると、受託者の名義にはなるものの、実質的には受託者の固有の財産にはならず、所有者のいない特殊な財産になります。これを信託財産の独立性といい、倒産から資産を守ることができる倒産隔離機能です(委託者=受益者という信託には、倒産隔離機能はありません)。
例えば、借金をしていた人が破産した場合、財産が差押えられますが、委託者、受託者、受益者がそれぞれ違う人物で信託すると、信託財産は所有者のいない特殊な財産なので強制執行の対象にはなりません。
このように、信託財産としていた場合に万一の破産から財産を守ることができます。事業経営者が、妻や子の将来の生活を守るため信託を設定すると、将来事業が倒産しても、信託財産は守られることになります。
しかし、倒産の危機を知りながら信託を設定することは、不法行為や詐害行為として無効や取消しの対象とされますので、破産などの予兆が無いときに、万一の保険として考えるなら有効と言えるでしょう。ただし、受益者の債権者が受益権に対して強制執行することは可能です。
家族信託の手続きや費用は「家族信託のやり方│手続きの流れと専門家の費用の目安まで全解説」を参照してください。
家族信託のデメリット
財産の管理を託す際に、自由度が高くメリットが多い家族信託ですが、デメリットもあります。
次からは、家族信託をすることで起こりうるリスクやデメリットについてご説明します。
受託者が信頼できなくなってきた
家族信託には、原則として、裁判所や法律専門家の監督がありません。つまり契約上監督者を指定しない限りは誰もチェックする人がいない状態で受託者に財産の管理から処分まで任せますので、本当に信頼できる受託者であることが重要です。
身上監護ができない
身上監護とは、本人の生活を維持するための仕事や療養看護に関する契約等のことです。
具体的には、親が認知症になって施設に入居する際、親の代わりに施設と契約することができません。また、入院等の手続きも同様です。
損益通算ができない
アパートなどの不動産を家族信託で契約した場合、その不動産経営で損失が出たときに損益通算をすることはできません。
損益通算とは
損益通算をざっくりと表現すると、通常、プラスとなった利益からマイナスとなった損失を引いた差し引き金額に対して税金がかかりますが、損失分を引くことができないということです。
詳しい専門家が少ない
家族信託は平成18年の信託法の大きな改正によって利便性が増し、脚光を浴びた比較的新しい仕組みです。そのため、専門家でもこの分野についての経験が無い、もしくは浅い人もいます。
このように、家族信託は万能ではありませんので、財産や状況を照らし合わせながら、他の制度とも比較検討することも大切です。
専門家の探し方を知りたい方は「家族信託は誰に頼む?専門家と銀行の特徴や違いを知って相談を!」を参考にしてください。
家族信託でよくある疑問
Q:家族信託の手続きを頼むのは専門家ならだれでもいい?
家族信託は、2007(平成19)年改正信託法で可能となった比較的新しい制度なので、歴史が浅いため実例も少なく、取り扱う専門家が少ないのが現状です。家族信託を専門的に扱う専門家や取り扱った実績のある専門家に頼みましょう。
Q:成年後見と家族信託との違いは?
成年後見制度とは「認知症や知的障害等の精神上の疾患により判断能力が著しく低下した方の財産を保護するため支援するための制度」で、成年後見人とは「家庭裁判所から選任されて、ご本人の財産保護や身上監護を行う者」のことです。
家族信託と成年後見制度の主な違いは以下の通りです
- 開始のタイミング: 家族信託は、本人の判断能力が十分にある時から開始できますが、成年後見は判断能力が低下した後に開始されます。
- 裁判所の関与: 成年後見制度は家庭裁判所の監督下にありますが、家族信託は契約内容に従って自由に運用できます。
- 費用の違い: 成年後見制度では後見人への報酬が発生し、ランニングコストがかかりますが、家族信託は初期費用のみで、契約後の自由度が高いです。
詳しくは「成年後見人とは?選び方や費用、法定・任意後見人と家族信託の違い」で解説しています。
Q:家族信託は途中で辞められる?
家族信託は契約ですので、委託者と受託者の双方が合意すれば辞めることができます。万一相手方が認知症などの症状が進み意思能力が無い場合は話し合い自体をすることができないため、辞めることができません。詳しくは「家族信託は途中で辞められる?契約の解除方法や精算業務まで解説」を参照してください。
まとめ
元気なうちは、財産管理ができなくなったときのことなど想像もしないかもしれません。
親が高齢化してきたり、夫婦で老後を過ごすことを考えたとき、将来のリスクに備えて、一度、家族信託で管理・処分・承継方法を検討してみてはいかがでしょうか。
家族信託を検討してみたい方は専門家からまず話をきいてみましょう。認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家を無料でご紹介していますので、気軽にご相談ください。