成年後見人とは?選び方や費用、法定・任意後見人と家族信託の違い
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.11.13
高齢化が進み、認知症の方も増えていくなかで、オレオレ詐欺など、判断能力の低下した方を狙った犯罪行為が増えてきています。また、判断能力が低下してしまったために、必要のない高額商品を購入してしまうなど、一人で財産の管理をするのが難しくなってしまう方も少なくありません。
このような場合に、ご本人の財産を保護するための制度が成年後見制度です。
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度2つに大別できます。
ここでは主に法定後見制度の成年後見人について説明していきます。
目次
成年後見人とは?
成年後見人とは、認知症や知的障害等の精神上の疾患により判断能力が著しく低下した方の財産を保護するために、家庭裁判所から選任されて、ご本人の財産保護や身上監護を行う者のことです。
成年後見人を選ぶ場合とは?
成年後見人を選ばなければならないような場合とは、
- 一人暮らしをしている年老いた母親が認知症になってしまい、必要のない家のリフォーム工事を度々契約してしまう。
- 父親の遺産分割協議をする必要があるが、弟が知的障害を抱えており、判断能力が不十分で、一人で判断できず、印鑑を押しても無効になってしまう可能性がある。
- 父親と同居している自分の兄弟が、父親がアルツハイマーで判断能力が低下したのをいいことに、父親の財産を勝手に使ってしまっている。
このように、ご本人の判断能力が低下しているために、ご本人の財産や権利が守られていない状況においては、成年後見人を選ぶ必要があります。
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成年後見人を選ぶとどうなる?
成年後見人の日常の職務は、本人(被後見人)の身上監護と財産管理です。成年後見人が選任されると、ご本人の財産は、成年後見人が管理することになります。
身上監護とは?
身上監護とは実際に身の回りのお世話をするということではなく、介護契約や施設入所契約、医療契約等を本人に代わって行うほか、本人の生活のために必要な費用を本人の財産から計画的に支出することが役割となります。
財産管理とは?
成年後見人は、本人の財産目録を作成し、収入や支出については、都度きちんと記録をして、領収書等の書類を保管しておかなければなりません。
取消権は法定か任意で違う
法定後見制度であればご本人(成年被後見人と呼びます)が単独で行った法律行為(契約など)は、日用品の購入等を除いて、成年後見人が取り消す(取消権)ことができるようになります。一方、任意後見人には取消権がありません。
つまり、成年後見人を選ぶとご本人は自由に財産を処分できなくなりますし、周囲の親族も成年後見人の同意なく勝手に使用することができなくなります。
法定後見制度には種類がある
法定後見制度は、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じた制度を利用できるようになっています。程度の重さについてざっくりと表現すると、「後見>保佐>補助」となります。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | |
---|---|---|---|
対象者 | 判断能力が欠けていることが通常の状態の人 | 判断能力が著しく不十分な人 | 判断能力が不十分な人 |
本人の同意 | 不要 | 不要 ※保佐人に代理権を与える場合は必要 | 必要 |
代理が可能な行為 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 |
成年後見人になれる人は誰か
成年後見人になるために特別な資格は不要です。親族や弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門家、法人など誰でもなることができます。
成年後見人に選ばれるのは、もともと被後見人の身の回りのお世話をしていた親族であることが一般的です。ただ、親族であっても以下の場合は、法律上、成年後見人になることはできません。いずれも、被後見人の財産を管理する能力や適格がないと思われる者です。
成年後見人になれない人
成年後見人になれない人は以下のような人です。
- 未成年者
- 家庭裁判所で親権喪失の審判を受けた者や、家庭裁判所で解任された保佐人や補助人であった者
- 破産者であって免責決定を得ていない者
- 被後見人に対し、裁判をしたことがある者及びその者の配偶者、直系血族
- 行方不明者
親族が選ばれない場合
親族が選ばれることが多いと言っても、次のような場合には親族以外の第三者が選ばれることがあります。
- 親族間において、誰を成年後見人に選ぶかについて意見の対立がある場合
- 被後見人が賃貸用マンションを所有していて賃料収入がある等、一定の事業収入がある場合
- 被後見人の資産が多額の場合
- 被後見人と後見人の候補者やその親族との間で何らかの利害の対立がある場合
- 後見人の候補者が高齢の場合
上記のように、被後見人に多額の財産や一定の継続的収入がある場合や、親族間に利害の衝突や対立があるような場合には、第三者の後見人が選ばれます。この場合に選ばれるのは、弁護士や司法書士等の専門家です。
成年後見人が複数人になる場合もある
成年後見人は1人ではなく複数の後見人を選任することも可能です。
財産管理を行う後見人と身上介護を行う後見人が複数人選ばれる場合もあります。
権限が分散される(事務を分掌)、または複数後見人で合意して権限を行使する(権限の共同行使の定め)など、複数後見人が選ばれた場合には一人当たりの負担が少なくなるというメリットはありますが、手続き等を行う際に複数後見人全員の同意取る必要があったりと進めるのに時間がかかることがデメリットとして挙げられるでしょう。
成年後見人を選ぶ手続き
成年後見人を選ぶためには、家庭裁判所に「後見開始の審判」の申し立てを行う必要があります。後見開始の審判の申し立ては、被後見人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
成年後見人選任の申し立てに必要な書類
家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうための後見開始の審判の申し立てに際しては、以下の書類が必要になります。
- 後見開始の審判申立書
- 被後見人となる本人の戸籍謄本、住民票(または戸籍附票)
- 成年後見人候補者の住民票(または戸籍附票)
- 被後見人となる本人の診断書
- 被後見人となる本人について、成年後見等に関する登記がされていないことの証明書(法務局で取得可能)
- 被後見人となる本人の財産の目録及び資料(不動産の場合は登記事項証明書、預貯金や有価証券の場合は通帳の写し等)
- 収入印紙(申立手数料800円+登記手数料2600円)
- 連絡用の郵便切手
成年後見人選任の申し立て後の流れ
後見開始の審判の申し立てを行うと、家庭裁判所による調査が行われます。
家庭裁判所調査官は、被後見人となる本人や後見人候補者と面談をして、本人や親族の生活状況、申し立てに至った経緯などを調査します。家庭裁判所調査官の調査を踏まえて裁判所が必要があると判断したときには、被後見人となる本人に対し医師による鑑定が行われます。医師による鑑定が行われる場合は、別途鑑定費用として10〜30万円程度が必要になりますが、鑑定が行われるケースの方が少ないと言われています。
最終的に、裁判所が、本人の判断能力が著しく低下していると判断した場合は、後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。なお、鑑定の結果、本人の判断能力が「後見」の程度まで至っていないと判断された場合は、「保佐」や「補助」の審判がなされる場合もあります(その場合、保佐人や補助人が選任されます)。
なお、後見人選任までにかかる期間は選任申立後、1~2ヶ月程度です。
成年後見人にかかる費用
成年後見人が必要になったときにかかる費用には、成年後見人を選任する際にかかる費用と、成年後見人に対する報酬があります。
成年後見人の選任にかかる費用
成年後見人の選任時にかかる費用は、後見開始の申し立てをする際に集める必要書類の実費と、後見開始の申し立てをする際に裁判所に申し立てる時に収める手数料が必要になります。合わせて3万円程度の準備が必要です。
申し立ての手続は専門家に依頼することができますが、10〜30万円程度の費用が別途必要となります。
成年後見人の報酬
成年後見人を選任すると、その職務に対して報酬が発生します。親族が後見人となっている場合は、あえて報酬の申し立てをしない場合も多いようですが、報酬の額は後見人からの申し立てにより、家庭裁判所が決定します。
専門家が後見人となっている場合は、被後見人の財産の額や、後見人として行った職務の内容によって上下しますが、通常は月額3〜6万円程度であることが一般的です。
成年後見人の期限
成年後見人を選任したら被後見人が判断能力を回復するか亡くなるまで職務を全うしなければいけないため期限はありません。また、簡単に辞めることもできません。
成年後見が終了するとき
成年後見が終了するのは、次のような場合です。
- 被後見人が死亡したとき
- 後見開始の審判が取り消されたとき
- 後見人等の死亡
- 選任審判が取消されたとき
- 民法846条、家庭裁判所による解任
- 民法844条、家庭裁判所の許可を得た辞任
- 民法847条、欠格事由による資格喪失
成年後見制度のデメリット
成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産等を保護するための制度です。
判断能力が低下した方の法律行為を制限し、成年後見人が付くことで、一部の親族が勝手に本人の財産を費消してしまったり、ご本人が悪質商法や詐欺の被害にあったりすることを防ぐことができます。
反面、ご本人の財産の使用に関しては、厳しい制約がつき、家庭裁判所の監督下に置かれます。
そのため、ちょっとした日用品の購入なども全てレシートを残して収支を記録しておかなければならず、このような事務作業が結構負担になることがあります。
あくまで本人の財産の保護という観点の制度なので、管理している財産を不動産投資や株式投資等の積極的な運用をしたり、相続税対策の目的で不動産等を購入したりといった積極的な財産の活用ができなくなります。
成年後見制度は、ご本人の財産の流出を防ぐことが出来る反面、事務の負担や、柔軟な財産の利用ができなくなるといったデメリットがあります。
また、後見人の仕事内容には問題ないが相性が合わないといった事情では解任することも辞任することもできません。そういった厳格な部分もデメリットでしょう。
法定後見人と任意後見人の違いとは?
ある方が認知症等になって後見人が必要になった場合に、申し立てにより、家庭裁判所で選ばれる後見人を法定後見人といいます。
これに対し、将来もし自分が認知症等になって後見人が必要になったときに、後見人になって欲しい人との間で、あらかじめ、将来後見人になってもらう約束(これを任意後見契約といいます)を交わしていた場合に、実際に後見人が必要人なった際に、その契約に基づいて後見人となった人を任意後見人といます。
任意後見契約を交わしている場合でも、その方を後見人とする際には家庭裁判所への申し立てが必要になります。
任意後見については「任意後見制度とは?手続き方法や費用、注意点を解説」で詳しく解説しています。
成年後見と家族信託との違いとは?
家族信託は、家族による財産管理の手法の一つです。
財産の所有者のかわりに家族が目的に従い財産の管理や運用、処分を行います。ただし、家族信託では、身上監護や契約の取り消しはできません。
親の財産を子が管理・運用できるよう契約を結んでおくことで、もし親が認知症になったときにもあせらずに済みますし、家族信託は委託者・受益者の合意があればいつでもやめられます。
一方、成年後見人については、家庭裁判所への申し立てが必要になり、簡単に辞めることはできません。
家族信託については「家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!」で詳しく解説しています。
成年後見制度と家族信託の比較一覧
法定後見 | 任意後見 | 家族信託 | |
---|---|---|---|
制度の目的 | 保護・支援 | 保護・支援 | 柔軟な財産の管理・運用・処分・承継 |
期間 | 後見等開始の審判~被後見人等が死亡するまで | 契約後、任意後見監督人選任の審判~本人または任意後見人が死亡するまで | 契約で定めた期間 |
管理される人 | 選任された人(家族など希望を出せるが選任される保証はない) | 任意後見人:契約で定めた人 任意後見監督人:選任された人 | 契約で定めた人 |
監督する人 | 家庭裁判所/後見監督人 | 任意後見監督人 | 受益者代理人/信託監督人(ただし、両方とも任意) |
権限 | 財産管理 法律行為 身上監護権 | 財産管理 法律行為(契約で定めた範囲内) *同意・取消権なし 身上監護権 | 信託財産の管理・運用・処分 |
報酬 | 家庭裁判所が決定する | 任意後見人:契約で定める 任意後見監督人:家庭裁判所が決定する | 信託契約の中で定めることも可、報酬条項がなければ無報酬 |
管理する財産の範囲 | 財産を包括的に管理 | 契約の内容にもよるが、財産を包括的に管理 | 契約で自由に定めることができる |
財産の管理方針 | 財産を目減りさせない | 財産を目減りさせない | 契約で定められた権限の範囲で運用や処分が可能 |
居住用不動産の処分(売却) | 家庭裁判所の許可が必要 | 任意後見人の判断でおこなえるが、合理的な理由がないと指摘される可能性あり | 契約で定められた権限の範囲で処分が可能 |
なお、家族信託では、身上監護権を契約に盛り込むことはできませんが、原則、子としての立場で同じ行為をおこなえると考えていいでしょう。
まとめ
高齢化は今後避けて通れない問題です。両親等の将来だけでなく、自分自身が将来、判断能力が低下してしまう可能性も十分あります。
せっかく老後のために蓄えた財産が有効に使えるように、専門家のアドバイスを受けながら、成年後見制度や家族信託等を上手に利用されることをおすすめします。
認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家をご紹介していますので、気軽にご相談ください。