嫉妬妄想や物盗られ妄想…認知症による症状と家族のサポートのポイント
記事作成日 2024.12.25 / 最終更新日 2024.12.26
認知症は、どの家庭にも起こりうる課題です。進行すると、忘れっぽさだけではなく「妄想」と呼ばれる症状が現れることがあります。
「なぜこんなことを言うのだろう」「どう対応すればいいのか」と悩むご家族も多いのではないでしょうか。
この記事では、認知症の中でも妄想という症状に焦点を当て、その背景や家族ができる具体的なサポート方法を解説していきます。
嫉妬妄想で配偶者(パートナー)の変化
家族が抱える悩みの一つとして、「配偶者(パートナー)が自分を疑うようになった」というケースがあります。
「最近、妻(夫)が妙に嫉妬深くなりました。帰宅が遅れると浮気を疑われたり、何気ない会話の中でも怒りをぶつけられることが増えました。医師に相談すると、認知症の初期症状かもしれないと言われ戸惑っています…」
認知症の症状はさまざまなケースがあります。その中で認知症による妄想があり、配偶者に対する浮気の疑いが含まれることがあるのです。これを「嫉妬妄想」といいます。
嫉妬妄想は、配偶者が浮気をしている、と強く思い込んでしまう状態です。本人は強い不安や恐れを抱えており、周囲もどのように対応すればよいか困ってしまいます。
認知症による妄想の種類
嫉妬妄想以外にも認知症による妄想には種類があります。以下に主な種類を解説していきます。
被害妄想
被害妄想は悪口を言われていると思い込んだり、自分は家族に必要とされていない、自分は家族にとって邪魔な存在だというように思い込んでしまうような症状です。
対人妄想・迫害妄想
対人妄想・迫害妄想は「知らない男(女)が家に入ってきた」「誰かに狙われている」など、誰かが自分に危害を加えようと企てている・攻撃されていると訴える妄想です。訴えが具体的で認知症の症状であることを知らない第三者が聞けば事実だと思ってしまいそうな内容の場合もあります。
物盗られ妄想
「お財布を盗まれた」「お金がない」といった言動がみられるのが物盗られ妄想です。
認知機能が低下することで「欲しい」と思った物を我慢するのが難しく、自分自身でお金を使いすぎてしまっても、お金を使ったことを忘れてしまうので誰かにお金を使われてしまったと思いこんでしまう場合もあります。なお、お金に執着する場合については「認知症の親がなぜ急にお金に執着?財産管理はどうしたらいい?」で解説しています。
他にも、妄想には見捨てられ妄想、帰宅願望など種類があります。
これらは認知症になったことで、できていたことができなくなっていく不安や孤独感が遠因であると考えられています。
性別に関係なく心配な嫉妬妄想
認知症には種類があり、アルツハイマー型認知症は女性の発症率が高いのが特徴ですが、レビー小体型認知症は男性に多く見られ比較的早く進行する傾向があるとされています。(認知症の種類については「認知症とは?種類やそれぞれの症状を解説」で解説しています。)
レビー小体型認知症の代表的な症状の一つに嫉妬妄想があります。
嫉妬妄想では、不安や恐れが高まった結果、暴言や暴力につながってしまう場合もあります。
また、浮気を疑う気持ちから「浮気調査」に至るケースもあり、経済的な負担が大きくなる可能性もあります。
これらの行動には本人に悪意があるわけではなく、強い不安に突き動かされているのだと理解してあげることが大切です。
認知症による妄想の原因と家族への影響
アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症では、画像診断で脳の萎縮が見られることが多くあります。症状はもの忘れから始まり、ゆっくりと進行していきます。
脳の機能低下による判断力の低下や記憶の混乱が起きることに加え、自分が衰えてきたことの自覚から生じる不安や焦りが、見捨てられるかもしれないとの恐怖や嫉妬、金銭の執着などの妄想に発展するのだと思われています。
本人の訴えを否定しても逆に「自分の言うことを信じてもらえない」と不安や怒りでかたくなになり、妄想が強くなることがありますので、相手を否定せずに話を聞き「そう感じたんだね」と共感することで、本人が置かれている状況への理解を示すことが大切です。
家族への影響
認知症による妄想は本人も辛いことですが、支える家族もストレスが増加するリスクがあります。
身近な配偶者や親が「こんなこと言うなんて」というショックもあるでしょう。病気による症状と気づかず、また、受け入れがたく無駄な争いを生んでしまうかもしれません。また、妄想の矛先が介護者に向いてしまうこともあります。
家族だけでの対応に限界があるときは、遠慮なく病院や信頼できる機関を頼りましょう。
お金のトラブルへの対策
認知症による妄想は金銭面にも影響を及ぼします。物盗られ妄想では「お金が盗まれた」と訴えたり、認知機能の低下で浪費してしまったり、悪徳商法に引っかかるなど、さまざまなケースがあります。
親子で保管場所を共有したり、家族から気をつけるように言っても本人は忘れてしまいますので、ツール(道具)を使って対策するのも一つの手です。
例えばオレオレ詐欺などの電話がかかってくる特殊詐欺への対策は「電話を常に留守電設定にしておく」「会話の録音機能のある電話機に買い替える」など物理的な道具を使った対策を検討するとよいでしょう。
認知症の親の代わりに財産管理
認知症ではなくても、高齢になると外出がままならなくなったり、お金を管理するのが面倒になる方もいます。財産管理という点については、親のお金を子どもが管理できるようにする家族信託という方法があります。
たとえば、預貯金や不動産の管理を信頼できるご家族に任せるため「気づかないうちに大きな出費をしてしまう」といったリスクを減らすことができます。
他にも成年後見制度など、状況に応じた制度や仕組みがあるので、複数の選択肢を比較検討してみてください。
家族信託とは
家族信託は、家族による財産管理の手法の一つです。信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みで、大切な財産を守ることができます。
財産の所有者のかわりに家族が目的に従い財産の管理や運用、処分を行います。
家族信託が締結されていれば、子どもが親の預貯金から治療費を支払ったり、不動産を売却して施設の費用を支払ったりすることができます。
家族信託は遺言と同様の機能もあり、死後についての契約もすることができますので遺言機能をもたせることができます。
家族信託については「家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!」で、成年後見と比較したい場合は「認知症の備えにはどちらを選ぶ?成年後見制度と家族信託」でそれぞれ詳しく解説しています。
まとめ
認知症の症状の一つである妄想について解説しました。
嫉妬妄想や物盗られ妄想、被害妄想などは、本人が強い不安や孤独感を抱えていることが背景にあります。家族ができる対策として、本人の訴えを否定せず共感を示し、安心感を与えることが大切です。
金銭面のトラブルには、家族信託や成年後見制度の活用を検討してみましょう。認知症に備えたお金の管理に不安がある方は、ぜひ「認知症家族信託ガイド」で専門家にご相談ください。