財産管理委任契約とは?作成方法や費用、成年後見制度や家族信託との違い
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.11.13
「判断能力はあるけれど、足腰が弱くなって外出がままならなくなってきた」
このように体の不調等で財産を自分で管理できなくなった場合に、財産の管理を家族や専門家に委ねるという選択肢があります。
その選択肢の一つが財産管理委任契約です。
この記事では、財産管理委任契約を中心に解説していきます。
目次
財産管理委任契約とは?
財産管理委任契約とは、親族や友人など信頼できる人に本人に代わって管理を任せ、重要な手続きや事務処理を代理で行ってもらうことができる、民法の委任規定に従った契約です。
委任とは法律行為の履行を契約した相手に頼むことです。病気や事故などで体調が思わしくなく、自分で財産を管理できなくなったときなどの備えに有効です。
財産管理委任契約でできること
委任契約では、以下のことを任せることができます。
- 銀行での引き出し・預入れ・振込み
- 公共料金などの支払い
- 保険の契約・解約、保険金の請求
ただし、実際に、銀行での手続きについては、財産管理委任契約に対する対応は、金融機関によってまちまちです。
財産管理委任契約で、銀行の取引を代行したい場合は、一度該当の銀行に問い合わせをした方がよいでしょう。
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財産管理委任契約は誰に頼める?
財産管理委任契約をする相手は誰にしても良いのですが、財産管理なので、親族などの関係の近しい、信頼できる人を選びましょう。
財産管理委任契約の作成方法
契約は、契約書というかたちで残さなくても、口約束でも有効です。
しかし、契約の内容を文書に残しておかないと年月が経つうちに細かい内容が分からなくなってしまい、トラブルとなることがあります。
したがって、財産管理委任契約は、対象となる財産やそれについての代理権の範囲、報酬や解除事由など、細かく取り決めしておくべきです。加えて、公正証書として作成しておいた方がより確実です。
財産管理委任契約の作成の流れ
財産管理委任契約を公正証書にするには以下の手順でおこないます。
- 契約内容を決める
- 専門家や公証人に書類の作成を依頼
- 公証役場に行って作成
財産管理委任契約の費用
財産管理委任契約を作成するだけであれば、数万円で済むでしょう。
受任者に対する報酬については、委任者と受任者との間で自由に決めることができますが、一般に、親族に委任する場合は、無報酬のことが多いでしょう。
専門家に依頼する場合の報酬は、一般的には月額1万円~5万円の範囲に収まることが多いと思われます。
財産管理委任契約のメリット・デメリット
財産管理委任契約のメリット・デメリットを説明していきます。
メリット
判断能力があるときから利用でき自由度が高い
成年後見制度とは異なり、利用するための特別な要件が定められていないので、本人の判断能力があるときから利用できます。取り決めする範囲も委任者が自由に決められるので、自分にとって必要な内容だけを契約することができます。
時間がかからず作成できる
財産管理委任契約は公正証書にする場合でも、日程の調整次第で、約2週間~1ヵ月以内で作成できるでしょう。
頼まれている証明になる
正式に法律行為を行う契約を結んでいることで、他の身内から怪しまれたり誤解されることを防ぐ効果が期待できます。
デメリット
頼まれている証明になる社会的信用が十分とはいえない
金融機関などではこの財産管理委任契約だけでは手続きができない場合が多いです。
取消権はつけられない
たとえば、本人が詐欺の被害にあった場合、委任者が代わりに契約の解除をするような法律行為の取消権を付与することはできません。
財産管理委任契約のデメリットへの対策
病気や事故などで体調が思わしくなかった方が、高齢により認知症に移行する可能性もあります。
そのような場合に備え、複数の契約をすることでより強固な対策を講じることができます。
財産管理委任契約から任意後見契約への移行
財産管理委任契約のデメリットに対する備えとして、委任者の判断能力が低下したときには財産管理委任契約から任意後見契約へと移行することを契約内容にしておくとよいでしょう。
任意後見契約とは
認知症や障害の場合に備えて、あらかじめご本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。
任意後見契約では、後見人の後見事務を監督する後見監督人が就くため、財産管理委任契約と比べて、後見人が財産を不適切に管理することを防止できる可能性が高まります。
ただし、財産管理委任契約から任意後見契約に移行するためには、委任者の判断能力が不十分な状況になったことに気が付いて、任意後見監督人選任の申立てをする必要があります。
適切なタイミングで任意後見契約に移行させるためには、さらに、見守り契約を加えておくとよいでしょう。
見守り契約とは、任意後見契約締結後、後見監督人選任までの間に、任意後見契約の受任者とは異なる見守り契約の受任者が、定期的に委任者と連絡をとったり、委任者の自宅を訪問して面談することにより、委任者の判断能力等を確認し、任意後見を開始させる(=任意後見監督人選任の申立てをする)タイミングを判断するための契約のことをいいます。
見守り契約の受任者として、委任者の推定相続人(その時点で相続が開始された場合に相続人となる人)の中に適任者がいれば、その人に委任するとよいでしょう。
適任者がいない場合は、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家に依頼するとよいでしょう。
家族信託と財産管理委任契約の違い
財産管理委任契約と同じように財産を本人以外に管理してもらう方法として家族信託があります。
家族信託とは、信託法という法律を利用して、財産や財産の運用などの権限を信頼する家族に信託して、財産管理と資産承継を行う方法で家族信託の利用開始後に本人への確認は必要ありません。
一方、財産管理委任契約は財産の管理や運用、処分などの委任契約を行使するたびに本人の意思確認が必要です。
そのため、認知症に備えるのであれば、家族信託の方が適しています。
成年後見制度と財産管理委任契約の違い
成年後見制度の目的は、認知症を含む、精神上の障碍を理由に、著しく判断能力が衰えた人を犯罪などから守り、生活を維持することです。
そのため、利用するためには家庭裁判所に申し立てをおこなうなど、手続きが厳格に決められています。しかし、その分、本人に代わってできる代理人としての社会的信用は高く、銀行などの手続きもできます。
一方、財産管理委任契約は自由度は高いものの、社会的信用が十分とはいえないため、この契約だけでは手続きができない場合があります。
なお、それぞれの違いについては「成年後見人とは?選び方や費用、法定・任意後見人と家族信託の違い」でも解説しています。
まとめ
以上、財産管理委任契約について説明しました。
財産管理委任契約、死後事務委任契約、家族信託などは専門家に相談しながら検討するとよいでしょう。
認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家をご紹介していますので、気軽にご相談ください。