高齢の親がうつ病の息子を心配して家族信託!父と兄弟の事例で解説
記事作成日 2024.07.26 / 最終更新日 2024.10.29
昭和の時代に核家族化が進み、夫婦と子どもの世帯が主流となりました。
そんな世帯も令和に入り、高齢となった親を子どもが支えている家庭は多いのではないでしょうか。
しかし、逆に、高齢の親が残していく子どもを心配しているケースもあるでしょう。
この記事では、高齢の親と次男がうつ病の長男を心配して家族信託を検討したケースについて解説していきます。
父と兄弟、3人のための家族信託
高齢の父親と同居している兄、それぞれの生活に不安や心配があり、独立して生活している弟が父と兄のために財産管理をすることができないだろうかという相談でした。
弟からの相談内容
父と兄は実家で2人で暮らしています。母はすでに他界しています。
兄はうつ病を患っており、体調の良い時はアルバイトなどをしていますが、悪くなると家に閉じこもるという生活を繰り返しています。
父も高齢になり、自身の健康にも不安があるため、自分がいなくなった後の兄の生活について心配をするようになりました。弟である私も、父のこれからの生活や、父に万一のことがあったとき、兄が相続によってまとまった財産を手にしたら一度に使い切ってしまわないだろうか、だれかに騙されて財産を失ってしまわないだろうかと心配しています。
私は家庭を持っており、近所で暮らしていますので、家族信託でうまく財産を管理することはできないでしょうか。
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家族信託で何ができるか
このような不安に対しては、家族信託の特徴である「親の金銭や不動産の管理を子どもに託すことができる」「内容は自由に設計できる」という特徴を活用することができます。また、家族信託で財産の承継先を生前に決めておくことができます。つまり遺言と同様の機能を付けることができるというわけです。
この相談に対しては、家族信託で父親の財産と長男である兄の生活費の管理を次男の弟にまかせ、また、相続に備えた内容を追加した内容となりました。
以下に具体的にご紹介します。
父と兄弟の家族信託の設計
家族信託のしくみでは以下の関係性を理解することが重要です。
- 委託者:所有財産を信託する人
- 受託者:信託財産の管理処分をする人
- 受益者:信託の利益を受ける人
父と兄弟、3人がかかわるこの事例では弟が受託者となる内容で家族信託の内容を設計しました。
父と兄の生活について
- 父が名義になっている自宅と預貯金の一部を、父が委託者であり受益者、弟を受託者とする
- 父の存命中は弟が信託財産から介護費用などを支払い、兄にも生活費を渡す
- 父が認知症などで高齢者施設に入り、自宅の維持管理が困難になった場合に弟が自宅を売却できる裁量権を持つ
相続について
- 父が死亡した際は、信託した預貯金の半分を弟が相続し、残りの半分と自宅は兄が受益者となる形式とする
- 兄が相続した自宅に住み続ける間は、弟が信託財産から生活費を渡す
- 兄が病気などで自宅で1人の生活が難しくなり、施設などに入った場合には、弟が自宅を売却できる裁量権を持つ
この親兄弟が抱えている将来の不安に対しての対策内容となっています。
信託する財産も自由に決める事ができます。不動産だけであったり、預貯金の内いくらまで、というような内容にすることも可能です。
このように、ポイントを踏まえて家族信託を設定することで、相談者のニーズを満たし、将来の生活保障を確保することができます。
なお、家族信託については「家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!」で詳しく解説しています。
家族信託を考える上での重要なこと
この事例では、家族信託の設計を進めるうえで不可欠な要素は以下の3点でした。
- 委託者の意思
- 家族間のコミュニケーション
- 受託者の役割
委託者の意思
契約には父(委託者)の意思能力が必要です。例えば認知症で意思能力が無い場合は、家族信託を結ぶことはできません。
この事例では、親の死後における子の財産管理について親である父が明確な意思を示しており、その内容を家族信託を必要としている子ども(兄)に伝えられたことが成功のための重要な要素の一つです。
意思能力については「認知症発症後からでは遅すぎる?家族信託と判断能力の関係」で解説していますので参考にしてください。
家族間のコミュニケーション
生活に不安がある兄のことを家族の課題として捉え、他の兄弟(受託者である弟)による財産の管理を受け入れられる環境であったことも大事なポイントです。
受託者の役割
相続が発生した場合に、受託者である弟は一定の財産を受け取ることにしましたが、法定相続割合を下回ることで納得していたことや、私利を求めず、父と兄の生活維持に専念することが一貫していたこともスムーズに進んだ要因の一つでした。
兄弟姉妹の仲が悪い場合は、生命保険や金融機関が提供する信託サービスなどの方法も検討してみましょう。
まとめ
以上、父と兄弟、3人のための家族信託について解説しました。
近年では老々介護と言われるように、受託者(本記事の弟)も高齢の場合があります。受託者一人では荷が重い場合は受託者のサポートをする人を指定して契約に盛り込むこともできます。
家族信託に精通した専門家に相談すると、色々な角度からの提案をしてもらえますので依頼する際は経験値の高い専門家を選びましょう。
認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家をご紹介していますので、気軽にご相談ください。