家族信託の終了と清算手続き|残余財産の分配・権利帰属者・精算受託者について分かりやすく解説
記事作成日 2024.11.14 / 最終更新日 2024.11.14
家族信託は、高齢者の財産を家族で円滑に管理・運用する手法として近年注目されています。
しかし、信託契約にも終わりが訪れます。信託契約の終了や清算手続きには特有の流れがあり、準備が必要です。
この記事では、家族信託の終了や清算手続きについてのポイントを分かりやすく解説します。
目次
信託が終了するとはどういうこと?
信託が終了するとは、信託の目的が達成されたり、契約条件が満たされたりして、信託財産の管理が終わることを意味します。通常、家族信託の契約時には、信託が終了する条件をあらかじめ定めておきますが、委託者が亡くなったときが信託終了とすることが一般的です。
「委託者が亡くなったのだから信託財産を相続人で分ければよいだけでは?」と思われるかもしれませんが、家族信託では相続に先立って清算手続きが必要です。
信託が終了すると、まず残余財産の確認が行われ、債務や諸費用の支払いを完了させた上で、残った財産はその財産を受け取る権利のある人に分配されます。清算が終了するまで信託は正式には終了しません。
家族信託終了の事由を定めておく
家族信託契約を作成する際には、信託が終了する事由を具体的に設定しておくことが重要です。例えば以下のような終了事由が考えられます。
- 委託者が死亡したとき:多くの場合、委託者の死亡を契機に信託が終了する形を取ります。
- 信託の目的が達成されたとき:受益者の生活支援などを目的としている場合、その役割が終われば信託は終了します。
- 契約で定めた事由が生じたとき:ある特定の状況になったら信託が終了するようにしておくことも可能です。
家族信託が終了する事由を明確に設定しておくことで、終了後の手続きを円滑に進めることが期待できます。
家族信託は契約ですので、委託者と受託者の双方が合意すれば終了を待たずして辞めることができます。「家族信託は途中で辞められる?契約の解除方法や精算業務まで解説」で詳しく解説しています。
また、家族信託の契約が強制的に終了してしまう場合もあります。「家族信託が強制終了してしまう1年ルール、30年ルールって何?」で解説しています。
家族信託の清算手続きとは
家族信託が終了すると、信託財産の清算手続きが開始されます。
清算手続きとは、信託財産を現金化したり、未払金や債務を精算するプロセスを指します。通常、信託の管理を行っていた受託者がそのまま清算受託者として清算業務を担当しますが、契約で別途指定することも可能です。
清算手続きの主な内容は以下の通りです。
- 信託財産の現金化:不動産や有価証券を売却。
- 未払金や債務の支払い:信託にかかる債務や費用の精算。
- 税金の支払い:信託契約にかかる未納の税金の納付。
清算手続きが完了するまで信託は存続しているものと見なされます。清算手続きが完了した時点で信託契約が終了します。
信託終了時の残余財産の分配
清算手続きが終了した後、信託財産の残余部分を指定された受益者や財産を受け取る権利を持つ帰属権利者に分配します。
残余財産とは、信託終了時に残っている財産のことを指します。この財産をどのように分配するかは、信託契約に基づいて行われますので、信託契約では、契約時に残余財産の受け取り人(帰属権利者)を指定しておくことが重要です。
どんなときに終了するのかを定める以外にも、残余財産をどうするのかと契約時に決めておくのも家族信託の大事なポイントです。
契約方法については「家族信託のやり方│手続きの流れと専門家の費用の目安まで全解説」で解説しています。
権利帰属者とは
家族信託終了時に財産を受け取る権利を持つ者を権利帰属者と呼びます。
信託法第182条に基づき、信託契約で指定された帰属権利者が残余財産を受け取る権利を持ちます。契約に指定がない場合、相続人が帰属権利者と見なされ、最終的に財産が清算受託者に帰属することもあります。
(残余財産の帰属)
第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。
相続人と帰属権利者の関係
家族信託の帰属権利者を必ず相続人にしなくてはならないわけではありません。契約時に相続人以外の特定の第三者を指定して帰属権利者とすることで、その財産は遺産分割の対象から外れ、指定した人に財産を帰属させることができます。
このような家族信託において信託財産を相続人以外に帰属させられる仕組みが、家族信託で遺言のような遺贈や死因贈与に類する利用ができると謳われる背景となっています。
清算手続きの終了と信託の完了
全ての精算が完了し、残余財産が帰属権利者に分配された時点で信託の清算手続きは終了します。信託財産に不動産が含まれる場合は、所有権移転登記と信託抹消登記が必要です。
以上で信託が正式に終了し、信託契約の目的が達成されることになります。
まとめ
家族信託の終了と清算手続きは、信託契約時から念入りに計画しておくべき事項です。
家族信託では、信託終了時に残余財産が円滑に分配されるよう清算受託者や帰属権利者の指定を明確にし、信託契約に記載しておくことが重要なポイントの一つなので、家族信託のノウハウの豊富な専門家に相談しながら契約を作成するとよいでしょう。
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