家族信託のやり方│手続きの流れと専門家の費用の目安まで全解説
記事作成日 2024.07.24 / 最終更新日 2024.11.13
家族信託では、認知症になったときや自分の死後の相続など、将来のさまざまな事柄に対応できます。しかし、自由度が高いがゆえに十分に活用するためには家族信託への理解と知識が必要になります。
この記事では、家族信託の基本的な仕組みや具体的なやり方や進め方、専門家に依頼したときの費用などについてご紹介します。
家族信託の基本的な仕組み
家族信託は、「委託者(受益者)」と「受託者」の同意で締結される契約です。委託者は、目的のために自分の財産のすべて、または一部を受託者に託します。この託された財産を「信託財産」と言います。受託者は託された財産を、契約書に定められた方法で管理・運用します。
家族信託では、この基本的な仕組みは決められていますが、信託の目的、受益者、受託者、信託財産、管理・運用の方法などは委託者によって定めることができます。その意味で、非常に自由度の高い制度と言われています。
家族信託は以下のようなことに活用できます。
- 将来の認知症に備える
- 遺言機能をつける
- 二次相続者を指定する
家族信託でできることの詳細は「家族信託とは?仕組みやできること・デメリットもわかりやすく解説!」を参照してください。事例を知りたい方は、こちらで各記事を見ることができます。
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家族信託の手順
では早速、家族信託のやり方の手順を解説していきます。
1.家族信託の目的と内容を決める
家族信託はなんらかの目的を達成するための手段ですので、そのために必要なことは何か、契約が終了するまでの間にどのようなことが起こりうるかを考え、それらに対応できるような内容にする必要があります。
話し合いではまず以下の基本的なことを決めていきます。
- 受託者はだれか
- 受益者はだれか
- 信託財産はなにか
- 信託財産の管理・運用・処分の方法はどうするか
- 信託期間はどのくらいか
以下の図のように、誰の財産を誰にどのように管理してもらうのか、財産からの利益は誰が受け取るのか、ということを決めます。
家族信託では、信託財産を指定することが可能です。金銭、自宅などの不動産、収益不動産など契約書に具体的に盛り込みます。信託財産の管理・運用・処分の方法を決めるうえで受託者に与える信託財産に対する権限を定めますが、権限が十分でないと信託事務が滞ることがあるので注意が必要です。
「信託期間」は、認知症に備えるための家族信託であれば、一般的には受益者が亡くなったときですが、状況が変化する可能性なども検討する必要があります。例えば「受益者と受託者の同意があれば本契約を終了できる」といった文章を盛り込むことで対策することができます。
また、以下についても決めておくとよいでしょう。
- 後継受託者
- 受益者管理人
- 残余財産帰属先
「後継受託者」とは、受託者が病気や事故で信託事務を続けられない状態になったり死亡したりしたときに、引き継いで信託事務をおこなう人です。不測の事態に備えるというだけでなく、障害のある子の生活費などを、最初は親が、親が亡くなった後は障害のある子の兄弟が引き継ぐ、といった形でも使われます。
また、1年ルールと言って、受託者が信託事務をおこなえなくなってから1年間次の受託者が見つからないと、家族信託契約は強制的に終了します(信託法第163条)。そのため、信託口座を開設するときに後継受託者を定めることを金融機関に求められることもあります。
なお、1年ルールについては「家族信託が強制終了する1年ルール、30年ルールって何?」で詳しく解説をしています。
「受益者管理人」は、受益者が認知症や知的障害などで受託者の信託事務をチェックできないときに監督をする人です。もし、契約の条項の中に「受託者と受益者の同意があるときおこなえる」とした場合は、受益者管理人が受益者の代理で同意するかどうかの判断もします。
「残余財産帰属先」は、信託期間が終了したときに、残っている信託財産の受取人を誰にするかということです。これを設定することで、家族信託に遺言の機能を持たせることができます。受託者に残したいときにはそのように記し、財産ごとに受取人を指定することもできます。帰属権利者が先に死亡することを想定して、予備的な帰属権利者も指定しておくと良いでしょう。
3.金融機関を選択する
家族信託では受託者が委託者から預かった金銭を管理するための信託口口座を作ります。
信託口口座とは、受託者が委託者から信託された金銭のみを預け入れる預貯金の口座のことです。
ただ、家族信託に対応している金融機関は多くありません。また、信託口口座が開設できる金融機関に開設を希望しても、審査などがあって開設できない可能性もあります。
金融機関によっては、運用の方法や後継受託者を定めることなどについて変更や追加を求められることがあるので、家族信託契約書を作成する前に口座開設を希望する金融機関に相談しておきましょう。
3.家族信託契約書を作成する
契約の内容が決まったら「家族信託契約書」を作成します。
契約書に決まった書式はありません。ひな形が紹介されていることもありますが、家族信託は自由度が高く、それぞれの目的・財産の内容・家族の状況などによって契約書の内容も家族信託の数だけ存在するといってもいいので、ひな形は参考にする程度にとどめておきましょう。
信託財産については、数が多くなるようであれば財産目録を作成して添付書類にしましょう。
4.家族信託契約書を公正証書にする
作成した家族信託契約書は必ず公正証書にしなくてはいけないわけではありません。しかし、公正証書にしておくと以下のようなメリットがあります。後のトラブル防止のためにも公正証書にすることをおすすめします。
- 公証人が契約の成立を証明してくれることで信頼性が増す
- 家族信託契約書の内容を確認してもらえる
- 家族信託契約書の原本が公証役場で原則20年保管される
例えば、家族信託の契約内容によって不利益を被る家族がいると、後から契約の無効を申し立てられるようなことがありえますが、公正証書にしてあれば契約が有効であることを証明してもらえます。
公正証書は、原則として公証役場で20年保管されるので、万一自分で保管しているものを紛失してしまっても写しを発行してもらえるので安心です。
なお、公正証書にするときの費用の目安は、3万~10万円ほどです。
5.信託登記をする(不動産を信託する場合)
「信託登記」とは、信託財産に指定された不動産の名義を受託者にする手続きのことです。この手続きにより、第三者に信託財産であることが証明できます。登記は、不動産の住所地を管轄する法務局でおこないます。
登記には登録免許税がかかります。信託登記分の土地の税率(0.3%)は登録免許税の税率の軽減措置によるもので、今のところ令和8年3月31日までまでの予定です。
- 信託登記分(土地):固定資産評価額×0.3%
- 信託登記分(建物):固定資産評価額×0.4%
火災保険などの名義変更
信託登記によって、建物の名義が受託人になるため、建物にかけている火災保険なども名義変更する必要があります。名義変更をしないでいると、損害を受けても保険金が給付されないこともあるので注意してください。
手続きは保険の内容などによって異なりますので、保険会社に問い合わせましょう。
収益不動産があるとき
信託財産に収益不動産が含まれているときには、不動産管理会社や賃借人への対応が必要です。
税務署への届出
契約内容が自益信託(委託者=受益者)の場合は基本的には税務署への連絡は不要です。しかし、収益不動産があるときは税務署へ信託計算書を提出します。
また、不動産以外であっても、信託財産の中にの株式が含まれる場合については信託の計算書の提出が必要となるケースがありますので、税務署や税理士に相談しましょう。
家族信託の終了
認知症対策でおこなう家族信託は、委託者=受益者というケースが多く、この場合委託者が亡くなったときに家族信託は終了します。残った財産については、残余財産帰属先が家族信託契約書に盛り込まれているときにはそれに従い、そうでないときには相続人で協議が必要です。
残余財産帰属先の内容が遺留分を侵害しているときには、遺留分侵害額請求の対象になる可能性もありますが、対象とならないという見解もあります。専門家の間でも意見が分かれていますので、揉めている場合は弁護士に相談することになります。
家族信託を専門家に依頼するときの費用
家族信託を契約するためには、信託の目的を達成するために、あらゆる状況を想定して、契約書にする必要があります。これらのすべてを委託者と受託者、またはご家族だけで決めるのは難しく、また契約上の不備を防ぐためにも、専門家への依頼を検討してください。
家族信託にかかる費用の内訳は次のようなものです。
- 契約書作成費用(契約書の作成、公正証書の作成等)
- 信託登記の費用(登録免許税、必要書類の収集、司法書士報酬等)
- 内容に応じてかかる費用(内容の変更、監督人がいた場合の報酬等)
家族信託は個人の財産によって内容が違うため、費用には幅があるのですが、おおむね下記のような価格帯が多いようです。
- 信託財産に不動産がない場合:30万円~70万円以上
- 信託財産に不動産がある場合:50万円~100万円以上
なお、金融機関に依頼する場合は、費用が高くなる傾向があります。最低100万円からといった指定があったり、ランニングコストがかかるところが多いです。金融機関での家族信託を検討している方は「家族信託は信託銀行でないとできない?違いや銀行ごとのサービスも紹介」を参照してください。
まとめ
以上、家族信託の仕組みややり方、流れなどを解説してきました。
家族信託は自由度が高いがゆえに、同じ目的や財産の内容であっても契約の内容によって良いものにも悪いものにもなる可能性があります。長期間にわたる契約ですので、トラブル防止のためにも不備などは避けたいものです。
家族信託を検討してみたい方は専門家からまず話をきいてみましょう。
認知症家族信託ガイドでは家族信託に精通した専門家をご紹介していますので、気軽にご相談ください。