要支援になったらすぐに対策すること、認知症に備えて家族信託を検討
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.09.04
介護認定は、住まいの市区町村で申請をします。
さまざまな介護サービスを利用できて、介護の負担を減らしてくれる介護認定。
その中で要支援になった場合の財産管理の備えについて解説していきます。
要支援とは
公的な介護保険制度で利用できるサービスは、介護の度合いで違います。
介護の度合いは7段階に分かれています。
軽い順から、要支援1→要支援2→要介護1→要介護2→要介護3→要介護4→要介護5の順に重くなります。
上記の図のように7段階のうちの2つが要支援です。いずれも要介護より介護度は軽い状態です。
要支援・要介護度によって、介護サービスの量や種類が決まっています。また、サービス利用の一部は自己負担です。
要支援1
要介護状態区分の中でも最も介護度が軽く、ほぼ自分でできるけれども「日常生活の中で見守りや支援が必要」という認定です。
介護認定されていない人と比べると、起き上がったり立ち上がったりするのに日常で不安がある状態です。
要支援2
要支援1と同様にほとんど介護を必要とせず、排泄や食事なども自分で行うことができる状態ではあるものの、要支援1と比べてより支援が必要な状態のことを指します。
具体的には立ち上がる時に補助が必要だったり、移動時に支えが必要だったりします。理解力の低下もみられるケースもあります。
介護1~5については「認知症は要介護いくつになるの?介護認定されたら家族信託はできる?」を参照してください。
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要支援になったらすぐに対策すべきこと
初めて介護認定を受けるわけですから、ご本人にとってはショックなことかもしれません
しかし、要支援認定を受けることで介護保険制度を活用することができます。
介護予防サービスを利用して、少しでも生活の質を保つようにしましょう。
介護予防サービスの利用
要支援1や2では状態の悪化を防ぐための以下のような介護予防サービスを利用することができます。利用する際には費用の1割~3割の自己負担が必要です。
通所して利用するサービスと訪問を受けて利用するサービスがあります。
通所して利用するサービス
- デイサービス(介護予防通所介護)
- デイケア(介護予防通所リハビリテーション)
- ショートステイ(介護予防短期入所生活介護)
- 理学療法士などの指導を受けながらの運動機能向上※
- 栄養管理士などの指導を受けながらの栄養改善※
- 歯科衛生士などの指導を受けながらの口腔機能訓練※
(※行っていない事業所もあり)
訪問を受けて利用するサービス
- 介護予防訪問入浴介護
- 介護予防訪問看護
- 介護予防特定施設入居者生活介護
- 介護予防訪問リハビリテーション
上記のサービスの他、福祉用具を貸りたり、購入することもできます。
手すりの取り付けや段差解消などの住宅改修も20万円を上限に費用の1割~3割の自己負担でおこなうことができます。
介護予防サービスの問い合わせ先
地域包括支援センターは、高齢者の生活を支えるための介護医療や保険、福祉などの公的な総合相談窓口です。保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門家がチームとなって、高齢者やその家族のさまざまな相談を受けています。相談は無料です。もちろん、自身のケアマネジャーにも相談できます。
認知症の対策
介護予防と同時に、介護が進んだときのことも考えておく必要があります。
介護度合いが進み、認知症になった場合は、法律行為ができなくなります。
法律行為とは
法律行為とはとても簡単にいうと自分の意思で「契約」することです。
認知症になってできなくなる法律行為は具体的には以下のようなことです。
- 預金の引き出しなどの取引
- リフォーム工事
- 不動産の売買
- 生命保険の解約や保険金請求
お金の取り扱いに関しては切実な問題です。
今は殆どの方がお金を銀行に預けていますから、預金の引き出しができなくなると、困る場合が多いでしょう。かといって、全財産を現金で持っておくわけにはいきません。
そんな場合に備えて家族信託を検討してみましょう。
家族信託は財産凍結を回避できる仕組みとして現在注目度が上がっています。
家族信託とは
家族信託は、家族による財産管理の手法の一つで、契約内容を自由に決めることができます。
認知症に備えて、以下のようなことを決めておくことができます。
- 財産の管理
- 財産の処分
- 死亡後の資産継承先の指定
- 二次相続以降の資産継承先の指定
- 障害があるお子様の将来について
家族信託は委託者と受託者が合意して締結する契約であるため、委託者の判断力が衰える前に契約を締結する必要があります。
家族信託の図解
ここでは認知症に備えて親の治療費や生活費を親の財産から支払うための、親子間の家族信託について図解で説明します。
委託者・受益者=父
受託者=子
として、受託者である子が父の預貯金を下ろしたり、不動産を売却したりすることができるように契約をしておきます。
通常、家族信託の契約がない状態で、父が認知症になってしまうと父の財産は凍結されてしまい、父の生活費などが必要でも子は父の預貯金を引き出すことはできません。
しかし、家族信託が締結されていれば、子は、の預貯金から治療費を支払ったり、不動産を売却して施設の費用を支払ったりすることができます。
ただし、契約していない財産は対象外となります。
家族信託でできないこともある
家族信託は財産管理の面では多くのメリットがありますが、次のようなことはカバーできません。
身上監護はできない
身上監護とは、本人の生活を維持するための仕事や療養看護に関する契約等のことです。
具体的には、親が認知症になって施設に入居する際、親の代わりに施設と契約することができません。また、入院等の手続きも同様です。
節税対策はできない
財産の名義を変えたからと言って相続財産が減るわけではありません。
そのため相続対策として家族対策は有効ではありません。
損益通算ができない
アパートなどの不動産を家族信託で契約した場合、その不動産経営で損失が出たときに損益通算をすることはできません。
損益通算をざっくりと表現するとプラスの利益からマイナスとなった損失を引いた差し引き金額に対して税金がかかりますが、分を引くことができないということです。
家族信託でできないことが、自分にとってどのような不利益がおこるかなどはそれぞれの状況によってかわります。
士業は家族信託の受託者になれない
受託者を専門家(士業)に頼めば安心なんじゃない?と思う方もいるかと思いますが、専門家(士業)が不特定多数の信託の受託者になることは、法律上で認められていません。家族信託は、家族による財産管理の手法の一つです。
家族信託と成年後見の違い
認知症なので成年後見人を付けた、ということを耳にしたことがある人もいるでしょう。
成年後見制度とは「認知症や知的障害等の精神上の疾患により判断能力が著しく低下した方の財産を保護するため支援するための制度」で、成年後見人とは「家庭裁判所から選任されて、ご本人の財産保護や身上監護を行う者」のことです。
家族信託と成年後見制度の主な違いは以下の通りです
- 開始のタイミング: 家族信託は、本人の判断能力が十分にある時から開始できますが、成年後見は判断能力が低下した後に開始されます。
- 裁判所の関与: 成年後見制度は家庭裁判所の監督下にありますが、家族信託は契約内容に従って自由に運用できます。
- 費用の違い: 成年後見制度では後見人への報酬が発生し、ランニングコストがかかりますが、家族信託は初期費用のみで、契約後の自由度が高いです。
まとめ
以上、要支援はどんな状態かということを中心に解説してきました。
認知症ではないけれど高齢の親のお金の管理に不安がある場合は家族信託を検討してみたらいかがでしょうか。
家族信託では、「誰に遺産を渡すか」ということの指定ができます。いわば遺言機能を付けることもできるので一度専門家と相談してみましょう。