相続人の中に認知症の人がいる場合に困ることと対策
記事作成日 2024.07.19 / 最終更新日 2024.09.04
近年「相続人の一人が認知症で困っている」といった相談が増えています。
相続人の中に認知症の人がいるとどんなことが困るのか、どんな解決方法があるのか、ということについてわかりやすく説明をしていきます。
認知症の人がいて困る相続手続きとは?
相続人の中に認知症の人がいると以下の手続きができなくなるおそれがあります。
- 故人の預金の解約
- 不動産の相続登記
故人の預金の解約
故人の預金を解約するには、遺言書がない場合は概ね以下の書類が必要です。
- 亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(金融機関の所定の書類の場合もあり)
- 相続人の印鑑証明書
相続手続きでは、どのような形で遺産を分配するのかということを各相続人が了解している必要があります。
しかし、相続人のなかに認知症の方がいる場合には、遺産分割協議を行うことが難しく、その人を除外した形での遺産分割協議は、無効となってしまいます。
ただし、預金の分け方が、民法で定められた法定相続割合であれば手続きをおこなうことが可能となります。
不動産の相続登記
相続登記は遺言書がない場合、一般的には以下の書類が必要です。
- 亡くなられた方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 亡くなられた方の住民票の除票
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 相続人の印鑑証明書
相続登記をする際も、不動産の相続について相続人全員の同意を得ているかを証明する必要があるため、遺産分割協議書が必要書類に含まれます。
相続人の中に意思能力が無い認知症の方がいる場合には、「成年後見人制度」の法定後見制度※を活用することで相続手続きを進めることができます。
※成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2つがありますが、すでに判断能力が低下している人が利用できるのは法定後見制度です。任意後見についてはこの記事の後半で説明します。
不動産の分け方が、民法で定められた法定相続割合であれば相続登記をおこなうことができますが、相続人が複数人いれば全員でその不動産を共有する状態になります。そのため、不動産を売却したいと思っても共有者全員との協議が必要となるため、結局は後から支障が出る可能性があります。
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成年後見人とは
成年後見人とは、認知症や知的障害等の精神上の疾患により判断能力が著しく低下した方の財産を保護するために、家庭裁判所から選任されて、ご本人の財産保護や身上監護を行う者のことです。
成年後見人の選任の流れ
成年後見人を選ぶためには、家庭裁判所に「後見開始の審判」の申し立てを行う必要があります。
医師に診断書を作成してもらい、成年後見人の候補者を立てます。どうしても、適当な候補者がいない場合は、候補者なしでも申し立て自体は可能です。
後見開始の審判の申し立てを行うと、家庭裁判所による調査が行われます。
最終的に、裁判所が、本人の判断能力が著しく低下していると判断した場合は、後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。
家庭裁判が成年後見人を選任する場合は、弁護士や司法書士など専門知識を有する者を選任します。
成年後見人の選任にかかる費用
成年後見人の選任時にかかる一時的に発生する費用としては、戸籍謄本や診断書等の必要書類を集めるための実費や裁判所に申し立てる時に収める手数料で、全て自分でおこなった場合は概ね3~4万円程度でしょう。
ただし、裁判所が医師の鑑定が必要と判断した場合はさらに10~30万円程度かかる場合もあります。
成年後見人の費用
成年後見人を選任すると、その職務に対して報酬が発生します。
報酬の額は後見人からの申し立てにより、家庭裁判所が決定します。親族が後見人となっている場合は、あえて報酬の申し立てをしない場合も多いようです。
弁護士等の専門家が後見人となっている場合は毎月発生する報酬金額は、通常は月額3~6万円位です。金額は財産額に応じて変わります。
認知症でも意思能力がある場合の解決策
成年後見人は、あくまで、本人の判断能力が低下した時点(そのように医師や裁判所が認めた時点)においてのみ職務を行うことができます。
しかし、本人の意思能力があるうちであれば、家族信託や任意後見制度を活用することで対策を取ることができます。
家族信託
家族信託は、家族による財産管理の手法の一つです。財産の所有者のかわりに家族が目的に従い財産の管理や運用、処分を行います。
家族信託では、契約内容を自由に決めることができます。
認知症に備えて、以下のようなことを決めておくことができます。
- 財産の管理
- 財産の処分
- 死亡後の資産継承先の指定
- 二次相続以降の資産継承先の指定
- 障害があるお子様の将来について
任意後見制度
認知症や障害の場合に備えて、あらかじめご本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度を任意後見制度といいます。
本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもと、本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。
成年後見(法定後見)、任意後見、家族信託の違いの一覧
成年後見(法定後見・任意後見)、家族信託の主な項目の違いを一覧にしました。
法定後見 | 任意後見 | 家族信託 | |
---|---|---|---|
制度の目的 | 保護・支援 | 保護・支援 | 柔軟な財産の管理・運用・処分・承継 |
期間 | 後見等開始の審判~被後見人等が死亡するまで | 契約後、任意後見監督人選任の審判~本人または任意後見人が死亡するまで | 契約で定めた期間 |
管理する人 | 選任された人(家族など希望を出せるが選任される保証はない) | 任意後見人:契約で定めた人 任意後見監督人:選任された人 | 契約で定めた人 |
監督する人 | 家庭裁判所/後見監督人 | 任意後見監督人 | 受益者代理人/信託監督人(ただし、両方とも任意) |
権限 | 財産管理 法律行為 身上監護権 | 財産管理 法律行為(契約で定めた範囲内) *同意・取消権なし 身上監護権 | 信託財産の管理・運用・処分 |
報酬 | 家庭裁判所が決定する | 任意後見人:契約で定める 任意後見監督人:家庭裁判所が決定する | 信託契約の中で定めることも可、報酬条項がなければ無報酬 |
管理する財産の範囲 | 財産を包括的に管理 | 契約の内容にもよるが、財産を包括的に管理 | 契約で自由に定めることができる |
財産の管理方針 | 財産を目減りさせない | 財産を目減りさせない | 契約で定められた権限の範囲で運用や処分が可能 |
居住用不動産の処分(売却) | 家庭裁判所の許可が必要 | 任意後見人の判断でおこなえるが、合理的な理由がないと指摘される可能性あり | 契約で定められた権限の範囲で処分が可能 |
まとめ
高齢化は今後避けて通れない問題です。両親等の将来だけでなく、自分自身が将来、判断能力が低下してしまう可能性も十分あります。
成年後見制度や家族信託等を上手に利用して、お金の管理の不安を取り除きましょう。