認知症の父に無理やり書かせた遺言書でも有効?
記事作成日 2024.07.10 / 最終更新日 2024.11.07
認知症だった父親が亡くなり、葬儀が終わったあと、父と同居していた姉から遺言書を残していたこと聞き、内容を見てみると姉にほとんどの財産を渡すように書かれていた。
姉は認知症の父に無理やり遺言書を書かせたんじゃないか・・・?
故人の遺言書を見たら「思っていた内容と違う」と感じることもあるでしょう。事前に聞いていた内容と異なる場合、「こんな遺言書を作成するはずがない」と疑う場合もあると思います。
この記事では、遺言書の効力や認知症の関係について解説していきます。
遺言が有効とは?無効とは?
遺言書があったからといって、それが必ずしも実現されるわけではありません。
遺言書は、「一定の要件」を満たして作成されたものは法的効力を持ちますが、遺言内容によっては、その効力が及ばない、つまり無効となることがあります。
遺言書が無効となる場合
遺言書が無効になる場合は「形式的に無効である」「内容面の無効がある」この2つの点です。
見つかった遺言書が「公正証書遺言」であれば、形式的に無効であるとは考えにくく、争うとしたら内容面についてになるでしょう。公正証書遺言は公証役場で公証人に作成してもらう遺言書なので、法律の専門家である公証人が作成するので、作成方法を誤ったために無効になってしまう可能性はとても低いのです。
一方、「自筆証書遺言」であれば、形式的にも内容面でも無効である可能性が考えられるでしょう。自筆証書遺言とは、遺言者が自ら自筆で書く遺言書です。
なお自筆証書遺言と公正証書遺言の形式の違いについては「自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを比較!優先されるのはどちら?」を参照してください。
形式的な無効とは
民法上で定められた形式的な要件を満たさずに作成された遺言は無効となります。形式的な要件は以下の通りです。
- 遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し、押印する
- 遺言の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載する
- 財産目録については、自書でない場合はその目録の全てのページに署名押印が必要
- 書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印する
自筆証書遺言書であった場合は、まずこの点を確認しましょう。
内容的な無効とは
形式的な要件を満たしてあっても内容で無効になるのは以下のような場合です。
- 遺言作成時に遺言能力があったか
- 遺言の内容が理解可能であるか
- 公序良俗に反しないか
- 真意と内容に錯誤がなかったか
- 第三者からの強要がなかったか
認知症であった場合は「遺言作成時に遺言能力があったか」という部分がポイントとなるでしょう。
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遺言能力と認知症
認知症であったからといってかならずしもその人の遺言書が無効になるわけではありません。
認知症には程度がありますので、遺言書を作成したときにその人がどの程度の症状であったかということが重要となります。
意思能力とは自分が行おうとしていることが自分の権利や義務にどのような影響を持つかについて、ある程度理解できる能力です。意思能力が無い又は弱くなることで、法律行為ができなくなります。
遺言者に意思能力があったかどうかは、以下のような事情を考慮して総合的に判断されます。
遺言の内容が複雑か
「全財産を○○に相続させる」など遺言内容が簡単な内容であれば意思能力があったと判断されやすくなるでしょう。
逆に遺言内容が複雑で、財産との食い違いがあった場合、判断能力を疑われる可能性があります。
認知機能検査の点数
認知症の知能検査に長谷川式認知症スケールがあります。これが30点満点中20点以下の場合は認知症の疑いがあるとされています。もっとも、あくまで目安ではあるので10点以下であっても意思能力が認められた場合もあります。
医療記録や介護記録
医師による診断書や介護記録から、遺言書の作成当時に判断能力があったかどうか、財産の管理ができていたかなどを確認することができます。
ただし、以上については個人で調査を行うのは難しいので弁護士に相談しましょう。
遺言が無効か否かは、最終的には遺言書無効確認訴訟という裁判を地方裁判所に提起することになります。
まとめ
認知症の人が作成した遺言書が有効かどうかは、遺言書の作成当時にその人が意思能力を有していたかどうかで判断されることについて解説しました。その遺言書が「自筆証書遺言」「公正証書遺言」など、どの類型の遺言書だったかによって有効、無効の判断における難しさは変わってきます。
納得のいかない遺言書が見つかった時は、弁護士に相談することをおすすめします。